年末に逝く

大屋誠

2021年12月11日 08:16

 12月に入ると今年彼の世に旅立たれた人の名が報道される。年末近くなって瀬戸内寂聴さん、中村吉右衛門さんなど時代を彩ったそれぞれの世界で活躍した方が亡くなった。
 瀬戸内さんはお行き合いした事は無いが小説家として活躍し、奔放な性格であったとの事で、51歳で出家して晩年の方が説法会などを催してその生き方でも注目された。
 中村吉右衛門さんも同じくお会いした事は無いが、毎日再放映される「鬼平犯科帳」を観ていたのでとても身近な方の様な気がする。密偵の江戸家猫八さん演ずる“相模の彦十”との掛け合いも味わい深かった気がする。
 そんな年末近くになって悲報がもたらされた。私と同い年で上松技術専門校に一緒に勤めたK先生が亡くなったと校関係者が出張中に知らせてくれた。
 K先生は別名「カンナの神様」とも称され、その世界では我が国のトップの方でした。若い匠を育てる事一筋に生涯を捧げた人でした。
 豪放磊落、そして細かいところまで気を遣う方で、そして奢る事なく、私が今までの人生で行き合った方で、同い年ながら尊敬出来る方でした。
 フィンランドから専門校に来客があった折、通訳を交えず英語で話す姿は先生の学びの深さを知りました。
 お酒も好きで幾度となく飲みましたが、飲むたびに「何故、日本では尺貫法が使われるのか」、「法隆寺の柱は育って来た山の方向で使われている」など素人の私にひけらかす様な素振りもなく教えてくれました。時間も忘れて聞き入ったものでした。
 先生はNHKなど度々テレビにも出演してその技を披露していました。ストッキングの厚さよりも遥かに薄く削る技は伝説となっています。
 また、本人は意識してなくても人生訓の様な言葉も聞きました。「カンナの刃が切れても、カンナの台が歪みがあればダメ、土台がしっかりして刃が切れなければ削れない」やはりその道を極めて行った人ならではの含蓄のある言葉です。
 不世出の巨匠ともいう方で、定年後にさらに活躍して頂きたいと思っていましたが、退職した数年後に病が見つかり闘病生活となってしまいました。
 近況ではとても大事にしていた尺カンナ(約30cm)を始め全ての道具を処分したと聞いていましたが、必ず再起して頂けると思っていただけに残念です。
 でも、先生の魂がこもった道具は若手の匠に必ず引き継がれていくものと信じています。
 見上げる空の向こうに笑っているK先生の顔が見える気がします。
合掌
△上松技術専門校から先生が見ていた駒ケ岳



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